INFORMATION
ボールの着地音のみで構成された楽曲と、それに同期する延々とボールが着地する映像を制作。YPから浅野と玉田、ゲストで写真家の三田周が参加してプロジェクトを開始します。ここでは、それら制作の進捗やその時に考えていることを現在進行形で掲載していきます。
CREDIT
Project Direction: Asano Takamasa🥜 / Music: Tamada Kazuhei🥜 / Movie: AsanoTakamasa🥜, Sanda Shu(GUEST) / Photograph: Sanda Shu(GUEST)
#12
制作を中断してました。
前回の記事から間が開いてしまった。というのも遡ること2月初旬、それぞれが進めてきた素材を合わせて冒頭部分を作ってみた結果、思ったより面白くなく、というかつまらなかった。個別で進めていた構成素材(音素材/楽曲/アニメーション/背景/Vコン)はそれなりに手応えはあったけど、合わせてみるとなんか退屈。共に映像制作をする三田も同様で、とてもこれからの膨大な作業を進めていくモチベーションにはならなかった。このままではヤバいぞということで、ミスディレクションを反省しつつ浅野・三田に音楽担当の玉田も参加して話し合った。
◎問題点
・音と映像の同期がわかりづらい
・動画素材つかわずに「写真の構成」にこだわっている意図が見えにくい
・無機的な動きが効果的に使われていない
・作業量が膨大で細部の演出に集中できていない
ボールの音は確かに同じ空間内にいるように聞こえるけど、それぞれの違いが曖昧で故に音と映像の同期が分からない。ボールの動きも単体では無機質感が面白いけど、長尺のFIX画面に配置すると簡易的に見えてしまう。構成はこれらが曖昧なまま単調に進行しているため、見所がわからず退屈。ひとまず考えられる改善策を話し合って、またそれぞれ素材を試作することにした。
◎第一感、考えられる改善策
・音素材:差がわかりにくい音を整理(添削・調整・再録)
・楽曲:尺を短くする
・ボール素材:回転のFPSをかなり小さく設定して画像であることをより意識する
・アニメーション:これも同様にFPSを小さくしてコマ感のある動きにする
・構成:?
試作段階に逆戻りしてからから数ヶ月、なんとか先が見えてきた。
次の記事からはそれぞれ(音素材/楽曲/映像素材/アニメーション/背景)の改善を記していきまス。
#11
#10
背景制作。
前述で作成したボール素材の後ろに配置するバックグランド。伝統的なアニメ制作でいうところの美術。背景制作も音楽やボールと同じように、フェイクbyリアルの手法で作ることにした。三田が撮影した実写写真を僕が合成して再編集する手順。この段階では細かいコンテやレイアウトができていないけど、これまたアニメ制作でいうところのイメージボードを作る感じでひとまず無計画に作っていく。
三田が定期的に共有ストレージにアップする編集用素材写真は、クールに説明なく共有されるけど意図がモリモリ。僕からのパスは向こうが褒めるまで説明する。
#9
一つ注意書き。ここの記録は時間差がある。実はこの映像実験をしているタイミングでコロナが本格化。僕らの住んでいる地域で緊急事態宣言が発令された時期だった。グリーンバックの手法で進めると少なからず場所と人手が必要になるけど、コマドリ案ならリモート進行が可能だった。三田の実験にはそんな背景もあった。
ということで、コマドリ案を一度整理。
◎概要
ボールの回転は写真よるコマドリアニメーションで作成
ボールのバウンドは映像ソフトで作成
◎ボールのバウンド手順
1. ボールを少しずつ角度を変えて1周分を撮影
2. 撮影した写真を結合して回転するボールの映像素材を制作
3. 映像ソフトで、作成した素材を動かし擬似的に背景の中でバウンドさせる
4. 背景の光源に合わせてボールと背景に影を加える
整理してみるとめちゃローテク(大好き)。やはり工程が多かったり精度維持が大変だったりで、3Dでやったほうが効率がいい気がするけど、なんだか面白い質感の映像になっていたし、楽曲制作でキーワードになっていた「リアルとフェイクが入り混じる」はこの手法でより強調される気がした。大量の写真素材を使って映像を作ることにも興味が湧いた。全てが写真素材で構成されると決まれば、この手法の課題は演出で逆に活かせる気もした。ボールの動作はコマドリ案で進めることにする。
#8
#7
#6
映像制作の構想
玉田にお願いした楽曲制作も、試作とアイディアの交換を何度か繰り返すうちに、少しずつ面白そうな定着どころが見えてきた。ボールの打音は、残響音を含んだリアリティのある生の音感でありながらも、もっさりした感じはなく、逆に少しソリッドに誇張された音になっていた。楽曲構成も、色んな部活が混在した体育館のような環境音的展開の中に、規則的なビートやリバーブ・グリッヂなどのエフェクトが要所に加わっていた。お互いに「リアルとフェイクが入り混じる様子」に面白さを感じていた。
映像制作は3Dで作るか迷っていたけど、音楽がだんだん出来上がっていく中で、やはり映像も楽曲と同じように、リアルとフェイクが入り混じるモノがいい!と思い、実写映像を素材に使った構成物にすることに決めた。
全くやった事なかったけど、ボールがバウンドする様子を個別にグリーンバックで撮影して、合成で画面構成していく感じかな?と思い、以前別件で写真撮影のスタジオワークを一緒にしたことのあった、大阪在住の写真家 三田周に、プロジェクト参加の誘いと撮影の相談をした。
#5
楽曲制作2
大量の音素材を無作為に並べた楽曲を制作。眼の前に籠からひっくり返されたような大量のボールが現れたようなイメージで作っていた。組み上げていくうちに細かな打音は持続音のように聴こえてきた。音の隙間を埋める毎に、変にうねったサウンドが現れ始めた。組み上がった音源たちをコピーして倍に増やし、少し時間軸を調整すると、そのうねりは更に激しく、予想できない形に変わっていった。面白かったのでこれを浅野に共有。
課題点は多々あるが、この大量にボールが落ちてくる楽曲(以後カオス楽曲と呼称)と、最初に出したミニマルな楽曲を混ぜつつ展開させていったら面白い楽曲が組み上がるのではないかという話になった。カオス楽曲はボールの打点がほぼ面になっており、奥行きや低音感をもっと強調出来たら面白くなりそうだ。音の密集感ももっと調整できれば、カオスの中に彩りが見えてきそうだ。クラシックの交響曲のような、レイヤーが多くバリエーションに富んだ内容を目指して仕上げていこう。ということで更に楽曲制作開始。
ミニマル楽曲とカオス楽曲を織り交ぜつつ、展開を構築。打音を無理やり音階に当てはめてメロディーっぽいアプローチを掛けたり、音量差を使って音場を大きくしたり小さくしたり。プラグインエフェクトを使って打音を無理やりロングトーンにしてみたり。
エフェクトを掛けていく毎に、打音の実態がだんだんと見えてくる。打音はアタックとサスティンの2種類の音で構築されており、アタック部分はボールの素材にもよるが殆どホワイトノイズに近い。ボールに使われている素材が重く柔らかいほど音の分布が低音に寄り、薄く硬い程高音に寄っていく。もちろん床の素材が変わると音も変わる。アタックはボールと床がぶつかる瞬間の音なので、発音自体がかなり短く音程を判断する要素はほぼ無い。逆にサスティンの部分は、ボール自身が鳴っている音と部屋の反響が混ざった音なので、決まった音が残りやすい。部屋によって減衰する音の周波数に差が出たり、ボール自身の固有振動数や固有共鳴音が鳴っていたりするので、アタックよりは比較的音程が取りやすい音になっている。与える衝撃にもよるが、サイズが大きかったり素材が分厚かったり硬かったりするほどサスティンが伸びる。バスケットボールのサスティン音がとても面白く、革の分厚さと空気の張り詰めた音が同時になっていて、「ウーン」と唸るような音と「キーン」という高音が共存している。体育館で聴くバスケットボールのドリブル音はこうなってたんだな〜と思う。何となくわかった気でいる音が高解像度で見えて(聴こえて)くるのは楽しい。
なんてことを考えながら楽曲を制作。浅野と共有→微調整→共有を繰り返して、一先ず様子見のところまで落とし込む。最初は14分くらいの対策になったがあまりにも長すぎるため、ダブっている要素を削るなどして10分前後くらいに収める。こまめに共有することで、展開のアイディアも自分では想像できなかったものがたくさん出てきて助かった。自分は制作に没入すると考えすぎて視野が狭くなるフシがあるため、他人からのアイディアが出るたびに視野を無理やり広げられるような感覚になる。凄く助かっているが、いつまでも頼ってばかりではいられないので少しずつ改善していかねば。
ということで、一旦楽曲の芯の部分が完成。以降は映像の制作方法を検証し、それに伴った楽曲の再調整を行う。三田にバトンタッチ。
#4
楽曲制作1
収録した音声を並べて、楽曲をどのように構築していくかを考える。なんとなく、ミニマルテクノのようなソリッドで複合的なリズムをベースに、ポリリズム的に展開していくようなイメージが浮かんだので着工。ひたすらに波形を切り刻み、切ったり貼ったりを繰り返しながら楽曲を構築。拍子が入り混じることで得体の知れない感じが出せたら良いなと思って3/4と4/4の間を行き来するように打音を配置したり、ずっと流れ続けているようにキープしながら調整したりしているうちに、4分弱の曲が完成。
浅野に聴いてもらったところ、展開がミニマムで想像の範疇を超えないとの事だったので再考。確かに、言われてみれば曲全体にぼんやりとある「テクノのお約束感」みたいな雰囲気が漂っていたりする。ハッとするようなポイントも無いわけではないが少しパンチ不足のようにも感じる。ここで、ボールの打音をリズムマシンの音源としてしか考えられていなかったことに気づいて反省。せっかく生の音、生の音場がふんだんに収録されているんだから、その生感を殺してしまうのは勿体無い。音量感もダイナミクスレンジをもっと取って、小さな音から大きな音の差をもっとつけても良いんじゃないか。まるで体育館の真ん中でバスケットボールをドリブルしているような臨場感があっても良いんじゃないか。そこから大量のボールがどかどかと降り注いでくるのも面白そうだ。尺ももっと長いほうが面白そうという話にもなったので、アイディアはいくらあっても足りないくらいだ。
ということで練り直し。一先ずこの楽曲は横に置き、新たなアイディアのスケッチをするように2つ並行で楽曲のラフを作り始める。一つは大量のボールが降り注ぐカオスな楽曲と、もう一つはポリリズムやエフェクトなどを実験的に試すような楽曲。
#3
ボールの打音採取2
ボールの音を収録する際に、まずどのような音を録りたいかを決めた。最初にイメージしたのは、体育館で鳴っているバスケットボールの音のような残響感とアタック感。ボールが地面をバウンドしているところをイメージしやすいようなサウンドを目指して録音をスタートさせた。
場所はダンスの練習室。レコーディングスタジオのような整頓された音場ではなく、鏡張りで部屋の響きが派手に残る場所を選んだ。マイクはボールの着地点を狙うガンマイク1本と、部屋の鳴りを狙うコンデンサーマイク2本の合計3本。なるべく位相が悪くならないようにヘッドホンで確認しながら位置を調整して、狙った位置にボールを落として収録。四方八方に転がっていくボールを追いかけながらの録音になった。結果的にかなり部屋感を感じる音源が収録できたが、この音源だけで楽曲制作を行うことを考えると少し賑やかすぎる気もした。ので、結局レコーディングスタジオに同じマイクを持ち込んで部屋鳴りを削ぎ落とした音源も収録した。先程とは打って変わって、かなりソリッドな打音が録れていたので一安心。予想はしていたが、やはりボールの打音は鳴らす部屋によって性質が変わった。
家に帰って録音物を聴いて、人間の耳は都合良く打音と部屋の反射音をMIXして聞いているのだと改めて理解した。打音を収録したマイクと部屋鳴りを収録したマイクの音量を調節して、理想の打音に近づける。それをすべてのボールで調整し、ようやっと楽曲制作が始まる。
#2
ボールの打音採集
ボールの打音だけの曲と映像を作りたいと聞いて、最初にボールの種類と録音方法を考えた。バスケットボール、ラグビーボール、野球の硬球/軟球、ピンポン玉、BB弾、お手玉…。意外に種類が浮かんでこない。何となく当たり前のように感じていた「ボール」は、思っていたよりも日常生活と剥離した場所に存在していた。
一通りボールをリストアップし、録音した際に音として似てくるモノを纏めていくつかのカテゴリに分配。例えばバスケットボールとサッカーボールは径の大きさや空気のハリ感などから地面に叩きつけた音が似てきそうだ、野球の軟球とテニスボールは素材は違えどサイズ感から似たような音が鳴りそう、など。予算も収録にかける時間も無限大に使えるわけではないので、ある程度使いたい音を整頓しておいた。
その後街を徘徊してお目当てのボールを購入。街には全く想定外のボールが沢山あって目移りした。クリスマスツリーの飾りや、知育玩具のような柔らかいボール、なんとも言えない柔らかい素材で作られたボールなど、目につくボールをひとまず買い物かごに突っ込んでいく。その後選定を繰り返し、最終的には17~8種類のボールが手元に集まった。
#1
構想
まず、延々とボールが地面に落ち続ける画が浮かんだ。時間が止まったような空間の中に、色んなボールが落ちたり跳ねたりしている。聞こてくる音は、民族音楽のような。交響曲のような。映る景色は、風景のような。劇のような。必然性とフィクション。普遍的でドラマチック。尺は長い方がいい。視点は静的な方がいい。無言の存在感。そんな事を考えながら想像していた。
多分、魅力を感じてる趣は特別なものではなくて、例えば車の走行時に通り過ぎる街灯や白線や補装路の段差の関係性に、プログラムと勝手な物語を妄想するアレだと思う。ただ今回はそんな「風景の観察→物語の妄想」の順番を入れ替えて、「物語の想像(楽曲)→風景の妄想(映像)」の順で進めてみる。なんでもない音を楽曲として成り立たせるための工夫や都合は、自然に特徴的な風景や現象に変換されると思うから。
まずはじめに玉田にそのような意図を伝え楽曲の制作をお願いした。